タマゴがある。
タマゴがあり、内側を照らす赤味がかった光に沿って
ヒヨコが殻を割り外へと生まれてくる。
ヒヨコは鳴き声をあげながら歩き出し
他の命をついばみ、羽を生えかわらせ
トサカは育てない。ヒヨコはメスだ。雌鳥になった。
ヒヨコは恋をし
感情の起伏など知るよしもなく
〈私〉を完全態へと昇華させ得る
もうひとりの〈私〉を探し出した。
ハートの片割れを手に入れたのだ。
ピタリとはまり合うギザギザの断面に
痛みも、喜びも、満たされる感情も知るよしもなく
やっと五体満足の〈私〉を手に入れたと
証であろうひとつのタマゴをこの世に残した。
複雑な緑と褐色のマーブル模様の液体がうねり
境界線を彩る純白のやらしさが
強大な渦を自由自在に歪ませ
私の目の前でいつまでもドロドロと息をする。
なめらかな光沢が月夜の晩に反射している。
香りはない。
手を差し入れれば生温く纏わり付いたしつこさが
肘から糸を引き、滴り、その複雑さを増す。
肩まで奥へ、秘部を探るまぐわいのように
恐怖と興味に揺り動かされて「突っ込み」
口元まで侵食されるやらしくしつこい液体に勝利すると
指先に冷たい感触だけが伝わる。
触れたのかい?
誇らしく思う汚れのない我が半身と
私の半身上で混ざり合った最終の黒の色。
白い半透明の瞳でぼんやりと眺め
穢れた右手を左手の前で止め
必死に笑おうと雄叫びを挙げる。
何度も。何度も。
また恋をする。
タマゴがある。
タマゴがあり。
流動的な体系を維持する。
外の殻は常に代謝をくりかえし
中の細胞は押し出され役目を終えて剥がれ落ちる。
フラクタルに外は中であり、中は外である。
満ち満ちたグラスに注がれ続ける水のように
たゆんだ表面を輝かせて
くぼみと隆起に光の波長を反射させる。
グラスの胴体部で安定したようにたたずむ色は
表面の灰色の鈍い色とは異なり
透きとおり、淡い青を清らしく泳がす。
硬い音がする。高く硬い。
グラスの形は水に決められ
水の形はグラスに納まる。
たまねぎの皮むき。ドーナツの穴。
ヒヨコとタマゴ。始まりの時。
主従の関係はゆるがない。
すべては反射させた結果である。
黒い光を反射させたのだ。
得体の知れぬ後頭部の世界をさまよわせずに。
黒い光を黒く反射させ
赤い光を赤く反射させ
白い光も白く
青い光も青く
緑も緑、黄も黄、茶も茶
夢は夢、愛は愛、痛みも痛み
悲しみは悲しく、喜びは喜び、叫びは叫び
怒りはどこまでも怒り
黒い光を黒く反射させたのは〈私〉だ。
黒い光が主ではない。
それでもタマゴがあると云うのだろうか。
多謝。